将来的に臨床工学技士は必要な存在なのでしょうか。
医療の歴史、そして現状の医療の問題点から考えてみました。
臨床工学技士の将来性は?
医療の変遷
まずは医療の変遷について見てきましょう!!
- 国民皆保険制度開始
1961年に国民皆保険制度が始まり、その後地域によって異なっていた保険点数と診療報酬のレートが一律1点十円に変更。
- 老人保健法や高齢者保健福祉推進十箇条計画
医療会計システムや病院の情報システム導入。
高齢者保健福祉推進十箇条計画(ゴールドプラン)
- 電子カルテをはじめとする医療デジタル化
インターネットの普及により電子カルテや院内インターネットの活用。
- IoT、AIなどのテクノロジーが医療現場に導入。
今後、AIやIoTを活用したデジタルテクノロジーが医療現場に導入される可能性。
医療の変遷を見ていくと、このようになります。
そしてこれらイベントがだいたい20年周期で訪れています。
現在「AIやIoTを活用」がおおきなイベントになります。
日本の医療保険制度
日本の医療制度を見ていきましょう!!
- 国民皆保険
国民全員が医療保険に加入することで、費用負担が少なくなる一方、国全体の医療費は下げにくい
- フリーアクセス
国民誰もがどの医療機関であってもサービスを受けることができる
アメリカでは保険会社指定の医療機関を受診、それ以外の期間を受診すると費用が高くなる
- 自由開業制
医師は全国どこでも自由に開業ができる
- 出来高払い
医療行為を行った患者数、診療行為数が増えると収入が増える
このように、
国民全員が保険に入り、どの医療機関にも行くことができ、医師は自由に開業ができ、医療行為を行った分だけ報酬が得られる
というのが、日本の医療制度になります。
日本の医療の問題点
日本の医療の問題点について見ていきましょう!!
おおきく
- 医療の偏在化
- 高騰する医療費
- デジタル化の遅れ
に分類してみました。
医療の偏在化
2015年時点では65歳以上の高齢者1人を現役世代2.3人で支える計算です。
2030年では高齢者1人を現役世代1.8人で支える計算です。
また、65歳以上の人口が2040年では36%程度、2060年には40%程度になると予想され
「日本は今後、高齢化が進んでいく」
とされています。
しかし、各都道府県別に65歳以上の人口増加率の55%程度は
東京都、大阪府、神奈川県、埼玉県、愛知県、千葉県、北海道、兵庫県、福岡県
の9都道府県で占められています。
そのため、「日本の高齢化」は9都道府県を中心におこり、それ以外ではすでにピークをむかえ、65歳以上の人口があまり増加しません。
このように地域によって高齢者の様相は異なります。
今後高齢化が進む大都市圏では医療の需要が高まる一方、地方では医療需要が減少する可能性があります。
大都市圏内では高齢者が増える→医療、ヘルスケアの需要が増し医療者が集まる
地方では人口減少が進む→医療者が減少
地域医療較差が広がることで、医療との接点が減ってしまう可能性があるためオンライン診療をはじめとするデジタルテクノロジーの活用が重要になります。
高騰する医療費
2008年に約35兆円だった医療費は2018年には約43兆円になりました。
この原因は
- 高齢化
- 医療の高度化
があげられます。
また、2022年以降は団塊の世代が75歳以上になるため、医療費増加を抑制しなければいけません。
現在の死因の大部分は生活習慣病が絡んできます。
血圧が高ければ高血圧、血液検査などによる糖尿病と、診断自体は容易にできますが、基本的にひとたび診断がつくと薬を飲み続ける必要があります。長期にわたって診療、薬剤費用から医療費が増加しやすい傾向にあります。
そのため近年、医療費抑制のアプローチとして「予防」が注目されています。
予防には
- 一次予防:日ごろからの運動、健康的な生活習慣の実践
- 二次予防:早期発見、早期治療
- 三次予防:病気を発症した患者さんがこれ以上悪くならないようにする
があります。
高齢者には三次予防、若年者には一時予防、二次予防を積極的に行うことで医療費を抑制できると考えられます。
↓「予防」で本当に「医療費」は削減できるのか?
デジタル化の遅れ
医療現場はデジタル化が最も遅れている業界に一つです。
2000年以降、デジタル化が進み大きく変わった点としては
- 紙カルテから電子カルテへ変更
- レセプトの電子化
程度です。
デジタル化が進まないとおきる問題点の1つとして「医師の働き方改革」があります。
働き方改革により時間外労働の上限規制により直接的な医療提供が減少する可能性があるため、良質な医療を提供するために人工知能(AI)を用いた診断支援機器などの活用も重要になります。
2024年から医師の働き方改革が施行され「年960時間以下」の時間外労働となると、医療提供力は大幅に減少します。
そのため、
- 医療現場のデジタル化が進み、その対応に追われ一時的な大混乱
- デジタル化が十分に進まなかったため、医療提供力が減少したままで大混乱
という未来が待っている可能性が大いにあります。
2022年の診療報酬改定では
- ロボット支援手術の増点
- ロボットスーツによる補講運動処置の増点
- プログラム医療(治療用アプリ)診療報酬項目追加
- オンライン診療の制度
などデジタル化が進んだ診療報酬改定でした。
国としても医療のデジタル化を進めたいことがうかがえます。
また、身近にも医療のデジタル化が進んだ一例としてApple Watchの心電図アプリなどがあげられます。
このように、医療のデジタル化が必須であり、少しずつ、着実に行われています。
臨床工学技士の将来性を考えてみた
以上を踏まえて、臨床工学技士の将来性を考えてみましょう。
臨床工学技士の業務は多岐にわたります。
血液浄化や呼吸療法、人工心肺やペースメーカ、機器管理などなど。
さらに最近では内視鏡や集中治療などの業務も行われてきています。
こう見ると、臨床工学技士の業務の幅は年々広がってきていますが、どうも急性期領域が多いと感じます。
それは手術室や集中治療室にはたくさんの医療機器があるためです。
そのため、臨床工学技士の活躍の場は急性期領域が多くなってきます。
また、臨床工学技士と医療機器は切っても切れない関係です。
では医療機器とは何でしょうか。
医療機器とは、
医療の現場で疾患の予防、診断、治療に用いるものとして国が認めた機器です。手術支援ロボットや内視鏡診断AI、Apple Watchの心電図アプリ、治療用アプリも医療機器に含まれます。
医療用のAIやアプリなども医療機器に含まれます。
では、これからの医療はどのような流れになるのでしょうか。
これからの医療は「予防」に重きを置くと考えられます。
病気にならないことで医療費を削減しようという考え方です。
そのため、病気にならないために「予防」することが大切になってきます。
日頃の生活習慣を見直し、適度に運動したり、病気の早期発見、更には悪化しないようにするといった具合です。
ではこれらの予防を担うのはどこでしょうか。
主に診療所やクリニックになります。
しかし、これからの高齢化社会。
例えば医療の偏在化によって、地方に住む高齢者は近くにクリニックがないかもしれません。そして近くにクリニックがあったとしても、クリニックに行くだけでも一苦労。
そんなときに活躍するのがオンライン診療です。
オンラインで診療することができれば、自宅にいながら診療を受けられます。
家からクリニックが遠いなどは関係ありません。
オンライン診療ができるデバイスがあれば問題ありません。
しかし、現状はまだまだオンライン診療は浸透していません。
が、世間的にはオンライン会議、在宅勤務などWebを活用することが当たり前になってきました。医学系の学会もオンラインで行われたり、医療の領域でもオンラインが身近になってきました。
そのため、今後さらにオンライン診療は増加すると考えられます。
またオンライン診療とApple Watchの心電図アプリを組み合わせることで更に効果を発揮します。Apple Watchなどを使って、バイタルサインを抽出し記録する、いわゆるIoT機器があれば、より正確にオンライン診療が可能になると思います。
さらに、心電図だけではなく、SpO2や血圧、血糖値などさまざまなバイタルサインを測定し、記録できれば鬼に金棒です。
以上をまとめると
病気にかからない「予防」をすることが大切で、そのためには各クリニックで必要に応じて「オンライン診療」を実施する必要がある。また、IoT機器を使うことで、日常の患者さんのバイタルサインを入手することができ、診療の手助けになる。
このように、メインの医療が病院からクリニック、そして自宅と患者さんにより近いところに変化すると考えられます。
※もちろん、手術など治療が必要な場合は病院になりますが・・・・
そのため、今後臨床工学技士の業務はクリニックや在宅医療に広がる可能性があります。
しかし現状では、クリニックはともかく、在宅医療に臨床工学技士というと難しい気がします。
今後病院は「患者さんを治す場」としっかり住み分けをすると考えられるためです。
そのため、在宅医療にまで手を出すのは難しいと考えられます。
※病院が在宅医療まで行ったら、患者さんを治すという病院の範疇を超えてしまいます。
そのため、在宅医療のクリニックなどに臨床工学技士が務める形になると思います。
しかし、これもなかなか難しいと思われます。
臨床工学技士が務めることにより診療報酬が得られなければ、在宅医療のクリニックが臨床工学技士を雇うメリットが少ないためです。
※機器の点検などを行う、などのメリットはあると思いますが、それだけでは費用対効果は薄いと思います。
では、病院でもなくクリニックでもなければどこになるでしょうか。
それはメーカーです。
在宅医療機器のメーカーに臨床工学技士の需要は高まるのではないかと考えています。
※というか、メーカー以外だとたぶん厳しい。
医療機器メーカーの主たる目的は患者さんに医療機器を使ってもらうことになります。
そのため、今後在宅医療機器を扱うメーカーにおける臨床工学技士の需要は高まります。
医療機器の知識を有し、さらに、デジタル知識がある臨床工学技士はおそらく引く手あまたになるのではないかと思います。
以上より、臨床工学技士の将来性は
在宅医療へ参画できれば、将来性はグーンと高まると考えています。
逆に、在宅医療に参画できなければ、きっと今までとそこまで変わらないと思います。
今、世間が一番欲しているのは在宅医療です。
そこに参画する一番の近道は「医療機器メーカー」になるとわたしは考えています。
さいごに
臨床工学技士の将来性について私なりに考えてみました。
個人的には
- 在宅医療
- AI
- IoT
あたりがキーワードだと思っています。
みなさんもこれを機に臨床工学技士の将来性について一考してみるのはいかがでしょうか。
↓医療機器とAIの関連記事
↓AIに仕事を奪われる!?
参考図書・PR
- 医療4.0実践編 これからのヘルステック戦略
コメント