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医療経済の観点から「予防」を考える

組織・経営
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近年医療費の高騰が問題となっています。

2008年に約35兆円だった医療費は2018年には約43兆円になりました。

その原因として

  • 高齢化
  • 医療の高度化

があげられます。

そのため日本では病気を「予防」することで医療費を抑制しようという動きがあります。

↓予防関連の記事

しかし、病気を「予防」することで本当に医療費を抑制できるのでしょうか。

今回は「予防」と医療費について考えていきたいと思います。

予防では医療費を削減できない?

病気の予防は絶対的に必要です。

例えば糖尿病を送気発見できれば、その後、糖尿病の管理ができ、合併症の進行を遅らせることができます。よって早期発見、早期治療を行うことで疾病の罹患、進行を抑えられます。

では「医療費の削減」という観点から「予防」を見ていきたいと思います。

多くの予防医学は短期的な医療費を削減できたとしても長期的には医療費を増大させることもあります。よって「予防で医療費が削減できる」という考えは間違いである可能性があります。

2008年のアメリカ大統領選挙にて「予防で医療費削減」の公約をかかげました。

しかし、「New England Journal of Medicine」にて

↓「予防の多くは医療費を削減できず、むしろ医療費を上昇させる」という内容が記載されました。

Does preventive care save money?

禁煙対策がん検診メタボ検診など慢性疾患予防対策は、長期的にはむしろ医療費を増加させます。これら予防対策は慢性疾患にかかるタイミングを先送りしているという考え方です。

多くの人がいずれがん、心臓病、脳卒中などの慢性疾患にかかるため、かかった後は医療費がかかります。

禁煙対策は医療費を増大させる

禁煙対策や受動喫煙防止対策は絶対的に必要です。

受動喫煙はマナーの問題、健康被害の観点で重要です。

しかし、障害にかかる医療費の総額は喫煙者より非喫煙者のほうが高くなります。

The health care costs of smoking

がん検診は医療費を増大させる

がん検診には、死亡率減少効果に関するエビデンスがあるもの(大腸がん検診、乳がん検診など)とないもの(PETがん検診)があります。

エビデンスがない医療技術は費用効果分析で考えてもお話になりません。

費用効果分析とは

医療技術の効果だけではなく、費用も考慮して、費用に見合った効果があるかどうかを検討する分析手法。費用効果分析の対象になるものは何かしらのエビデンスがあるものが限られます。

従来の治療Aと新規治療Bを比較する場合、AとBの効果EAとEB、AとBにかかる費用CAとCBを計測します。

治療Aから治療Bに切り替えた場合の効果の増分ΔE、費用の増分をΔCとすると

  • ΔE=EB-EA
  • ΔC=CB-CA

となります。

治療Bの治療Aに対する増分費用効果比(ICER)

  • ICER=ΔC/ΔE=(CB-CA)/(EB-EA)

で表せられます。

医療技術の効果には

  • 疾病予防や治療
  • 生存年の延長
  • QOLの向上

などが含まれ、費用効果分析における効果の指標には生存年、QOLを組み合わせた質調整生存年(Quality Adjusted Life Years:QALYs)が用いられます。

QALYsの計算に用いられるQOL値

死亡を0、完全な健康を1としたときに、個々の患者のQOLを0から1の範囲内に換算した数値

また、EQ-5Dとは

  • 移動の程度
  • 身の回りの管理
  • 普段の活動
  • 痛みや深い感
  • 不安やふさぎ込み

の5項目について問う質問票であり、

  • まったく問題ない
  • いくらか問題あり
  • まったくできない

の3水準で評価する場合、EQ-5D-3Lといいます。

QALYsは生存年数を乗じて算出され、

  • 完全な健康の状態で10年生存の場合、1×10=10 QALYs
  • QOL値0.8の状態で10年生存の場合、0.8×10=0.8 QALYs

と、なります。

ICERは1QALY分増加させるために追加される費用で、

  • イギリス:2~3万ポンド/QALY
  • アメリカ:5~10万ドル/QALY
  • 日本:500~600万円/QALY

ICERが上記を下回る場合、費用対効果に優れておりICERが上回る場合、費用対効果に劣るとされています。

メタボ健診は医療費を増大させる

メタボ健診における特定保健指導を受けたグループは、受けなかったグループと比べて、翌年の健診でメタボが改善している割合が高く、短期の医療費を削減する可能性があります。

しかし、短期的な医療費の削減であり、長期的な医療費の削減にはつながりません。

2006年に厚生労働省はメタボ健診に約2兆円の医療費を削減すると目標を掲げましたが、実はこの目標値に特に意味はなかったそうです。

さいごに

高騰する医療費に対しては「予防」からのアプローチよりも「高度化する医療」に対するアプローチのほうが効果がありそうです。

そして、「高度化する医療→高度化した医療機器」とすると、「臨床工学技士」も「高騰する医療費」に対して何かしらのアプローチができそうですね。

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  • 経済学を知らずに医療ができるか!? 医療従事者のための医療経済学入門

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