呼吸器系コンプライアンスとは?
コンプライアンス?
人工呼吸器を考えるうえで「コンプライアンス」は非常に大事な考え方になります。コンプライアンスとは「やわらかさ」です。「ひろがりやすさ」と言い換えていもいいと思います。
では、人工呼吸器管理中の「コンプライアンス:やわらかさ」とは何でしょうか。
人工呼吸器が患者さんにガスを送り、肺が広がっていきます。そのため、
- 肺のやわらかさ
が関わってきます。
また、肺以外に「胸郭」を考える必要があります。肺は「胸郭」のなかにあるため、
- 胸郭のやわらかさ
も関わってきます。
「肺」と「胸郭」のやわらかさをあわせて、「呼吸器系コンプライアンス」と言います。
この「呼吸器系コンプライアンス」を式にすると
- CRS=ΔV/ΔP
となります。ΔVは肺容量の変化値、ΔPは圧力の変化値です。
なんで「CRS=ΔV/ΔP 」になるか考えてみよう!!
例えばPEEPが5cmH2O、送気する圧力が10cmH2Oだったとき、得られた換気量が500mLだったとします。
換気する際、PEEP5cmH2O+送気する圧力10cmH2Oの圧力(15cmH2O)がかかります。そのため、換気するための圧力変化値は10cmH2Oになります。換気量は0mLから500mLに変化するため肺容量の変化値は500mLとなります。
よって、このときの「呼吸器系コンプライアンス」は
- CRS=ΔV/ΔP =500mL/10cmH2O=50mL/cmH2O
となります。
まずは肺容量について考えていきます!!
送気する圧力は変化させず(10cmH2O)に、得られた一回換気量が1000mLに変化したとします。このときの「呼吸器系コンプライアンス」は
- CRS=ΔV/ΔP =1000mL/10cmH2O=100mL/cmH2O
となります。
送気する圧力は変化していないのに、肺容量が増えたということは、肺もしくは胸郭が「やわらかく」なったためと考えられます。
逆に送気する圧力は変化していないのに、肺容量が減ったら、肺もしくは胸郭が「かたく」なったと考えられます。
つまり、
肺容量が増えれば「やわらかく」、減れば「かたく」なったと言えるため、分子に「ΔV:肺容量の変化値」があります。
圧力でも同じことを考えてみよう!!
同じようにPEEPが5cmH2O、送気する圧力が10cmH2Oだったとき、得られた換気量が500mLだったとします。
このときの「呼吸器系コンプライアンス」は
- CRS=ΔV/ΔP =500mL/10cmH2O=50mL/cmH2O
となります。
では、送気する圧力を10cmH2Oから20cmH2Oに変化させたとき、得られた一回換気量が500mLと変化しなかったとします。このときの「呼吸器系コンプライアンス」は
- CRS=ΔV/ΔP =500mL/20cmH2O=25mL/cmH2O
となります。
送気する圧力を増やしたにもかかわらず、肺容量が変化しないということは、肺もしくは胸郭が「かたく」なったためと考えられます。
逆に送気する圧力を減らしたにもかかわらず、肺容量が変化しないということは、肺もしくは胸郭が「やわらかく」なったためと考えられます。
つまり、
圧力が増えれば「かたく」、減れば「やわらかく」なったと言えるため、分母に「ΔPは圧力の変化値」があります。
コンプライアンスの測定
コンプライアンスを測定するうえで注意点があります。
注意点ってなに?
それでは注意点を見ていきましょう!!
ドライビングプレッシャー:ΔP
注意点の1つ目は、ドライビングプレッシャー:ΔPです。
ドライビングプレッシャー?
↓ドライビングプレッシャー:ΔP関連の記事。
ドライビングプレッシャーは「プラトー圧-PEEP」です。
「呼吸器系コンプライアンス」はCRS=ΔV/ΔP ですが、ドライビングプレッシャーはこの式のΔPに当たります。そのため、ドライビングプレッシャーがしっかりと測定できていないと「呼吸器系コンプライアンス」も求めることができません。
ドライビングプレッシャーを測定するためにはしっかり「プラトー圧」を測定する必要があります。プラトー圧を測定するためには「吸気ホールド」を行います。「吸気ホールド」を実施し、吸気を閉鎖することで「autoPEEP」を改善させることで、正しいドライビングプレッシャーがわかります。
「吸気ホールド」を実施することで「量規定換気」のみならず「圧規定換気」でもドライビングプレッシャーを測定することができます。
自発呼吸中のドライビングプレッシャー
自発呼吸中のドライビングプレッシャーはどうすればいいでしょうか。
たとえばプレッシャーサポート(PSV)で換気していた場合、吸気終了の設定である「サイクルオフ」があります。息を吸いきる前に呼気へ移行するため、自発呼吸下では正しいドライビングプレッシャーがわかりません。
そこで、「吸気ホールド」です。
自発呼吸下で吸気ホールドすることで、正確なドライビングプレッシャーがわかります。
↓吸気ホールド関係の記事。
AOP(Airway Opening Pressure)
AOPってなに?
AOPとは、閉塞した回路のコンプライアンス程度までしか換気量が入らないポイントを「Airway Closure」と言います。そして、末梢気道開通に必要な圧力を「Airway Opening Pressure(AOP)」と言います。
↓AOP関連の記事。
末梢気道が開通していない状態で換気をしたときの圧力をドライビングプレッシャーとしてしまうと、正しくコンプライアンスを測定することができないため注意しましょう。
食道内圧
「呼吸器系コンプライアンス」は「肺コンプライアンス:CL」と「胸郭コンプライアンス:Ccw」を合わせたものです。
- 肺コンプライアンスCL:一回換気量÷経肺圧
- 胸郭コンプライアンスCcw:一回換気量÷食道内圧
で表すことができます。
「呼吸器系コンプライアンス」を分けて測定するためには「食道内圧」を測定する必要があります。
そこまでして分けて考える必要はあるのでしょうか。
少し考えてみよう!!
- 「胸郭」がかたい、「肺」がやわらかい
肺がやわらかいため、肺は小さな圧力で広がります。しかし、胸郭がかたいため胸郭を広げるには高い圧力が必要になります。
- 「胸郭」がやわらかい、「肺」がかたい
肺がかたいため、肺を広げるには大きな圧力で必要になります。しかし、胸郭はやわらかいため胸郭を広げるには小さい圧力で大丈夫です。
よって一回換気量や気道内圧が同じだとしても、「肺」にかかる圧力(⁼経排圧)はそれぞれ違うことがあります。
そのため、「肺」と「胸郭」を別々に考えることが時には良いことがあります。
例えば
- 「肥満」であれば、「胸郭」を広げるために必要な圧力は高くなる
→胸郭コンプライアンスは低い
- 「新生児」であれば、「胸郭」をひろげるために必要な圧力は低くなる
→胸郭コンプライアンスは高い
と考えることができます。
↓経肺圧に関係する記事。
さいごに
今回は「コンプライアンス」について深堀してみました。
「コンプライアンス」を考えるにはいろいろな知識が必要であり、とても奥が深いですね!!
- 【人工呼吸器】EIT【論文】
- 【人工呼吸器】R/I比【論文紹介】
- 【人工呼吸器】NAVA【論文置き場】
- 【人工呼吸器】メカニカルパワー関係【論文】
- 【人工呼吸器】ドライビングプレッシャー:ΔP【論文】
- SpO2の管理はどのくらい?【論文・ガイドライン】
- 【人工呼吸器】P0.1,ΔPocc【論文】
- 【人工呼吸器】経肺圧【論文】
- 【人工呼吸器】PMI(Pmus Index)【論文】
- 【人工呼吸器】AOP【論文】
- 【人工呼吸器】SBT【論文】
- 【酸素療法】HFNC【論文紹介】
- 【人工呼吸器】Vcap(Volmetric Capnography)【論文】
- 【人工呼吸器】VIDD【論文紹介】
- 【人工呼吸器】人工呼吸器の不同調(非同調)
- 【人工呼吸器】リバーストリガー【不同調】
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