今回は「人間工学」の視点から「医療機器のアラーム」について考えていきます。
人間工学?
まずは人間工学について見ていきましょう。
人間工学
人間工学について考えてきます。人間工学とは
人間が関係する機械・用具・作業・環境などを人間にとって作業しやすく使いやすいものに設計・改善するための工学
です。
次に「使いやすい」とは何か考えていきます。
使いやすい医療機器ってなに?
操作性が良い医療機器は使いやすい医療機器でしょうか。
もちろん使いやすい医療機器です。
便利な医療機器は使いやすい医療機器でしょうか。
こちらも使いやすい医療機器です。
このように「使いやすい」はいろいろな意味を包含しています。包含されている意味をあげると
- 操作性
- 快適性
- 利便性
- 誤りにくい
- 安全性
- 信頼性
- 保守性
などです。これらの条件が達成された医療機器が使いやすい医療機器となります。
医療機器のアラームが発生したときを考える
医療機器のアラームが発生したとします。すると
アラームだ!!
と、気が付きます。このとき、どうやって気が付くかというと「アラーム音」の発生が大多数だと思います。
次にアラーム音を発生させている機器の同定です。
あそこだ!!
と、気が付くためには「アラームの発光」が重要になります。赤や黄色に光っている医療機器を見つけてアラームが発生している医療機器を見つけます。
このようにアラーム音には、アラーム発生を知らせる役割があり、アラームの発光には、アラーム発生機器を知らせる役割があります。
よって「聴覚」と「視覚」が大事になります。では「聴覚」と「視覚」について見ていきましょう。
聴覚
聴覚は「何がいつ起きたか」を見つけるのが得意な器官です。
聴覚の特性を見ていきましょう!!
- 周波数20~20kHz程度まで聞くことが可能
- 左右の耳のタイミングのズレは20μs
- 1msのタイミングまで検知が可能
- 左右の耳により音の位置を見極めることが可能(音像定置)
という特性があります。
この特性を活かして「注意喚起」をするほか、聴覚には言語の伝達などの役割があります。
視覚
視覚は「何がどこにあるのか」を見つけるのが得意な器官です。
まずは視覚の特性について見ていきます。
上下の視野は上が50~55°まで、下は70°から80°まで見ることが可能です。しかし上限・下限ギリギリの角度における色彩の違いは判断できません。
また、太陽光は45°以上の場合は気にならないとされています。
だから、まぶしいと感じるのは朝と夕方が多いのか!!
次に左右の視野について。左右の視野は
- 文字の識別は10°以内
- シンボルの識別は30°以内
- 色、輝度変化に対する識別限界は60°以内
- 対象の存在を認識できる程度の視野は200°以内
と言われています。
文字の識別が10°以内ということは、画面が大きすぎると文字を読むためには何度も視線を移動させないといけなくなります。これではミスのもとです。
画面は大きければいいというわけではないのか!!
次に「動体視力」について。動体視力とは動いているモノの認識に対する視力です。速度が上がるほど視力は低下するとされています。また、物体が一定の方向に一定時間動いているのを見た後だと停止した物体が逆方向に動いているように錯覚する運動残効というものもあります。
次は離れたところから文字を見た場合の特性です。離れたところから文字を見ると
- 角が丸く見える
- 分離がつながって見える
- 最後は丸く見える
という特性があるため、この視覚特性に合わせて文字のフォントを調節する必要があります。それを「オブジェクト・エンハンスメント」と言います。
次は文字の太さと背景色についてです。背景色が黒・白の場合で文字の色もそれぞれ白・黒のとき、文字の太さはどのように影響するでしょうか。
文字が太ければ太いほど見やすい気がするけど・・・
背景色が黒の場合、遠くから文字を見るとき、文字の太さは「細い」ほど見やすく、逆に背景色が白の場合文字の太さが「太い」ほど見やすくなります。
お次は「メモリ」について。メモリには縦型や横型、円や針が固定されメモリが動くタイプなど様々あります。これらメモリは縦型、横型、円、針が固定の順番での読み間違えやすいとされています。車のタコメーターなどは読み間違いを防ぐために円形になっています。
だから、酸素流量計のメモリを読み間違えることが多いのか!!
聴覚と視覚の連携
聴覚は「タイミング」の検知は得意だが、「場所の認知」は苦手です。一方視覚は「場所の認知」は得意ですが「タイミング」の検知は苦手です。そのため、「聴覚」と「視覚」は互いの苦手を補い合っていると言えます。
各々得意分野であるタイミングは聴覚情報が、場所の認知は視覚情報が優先されます。
例えば一度画面が点滅するのに対し、音が2回したら、あたかも2回画面が点滅したかのように錯覚してしまいます(タイミング)。また、司会者が何かしゃべっているとき、実はサイドスピーカーから音声を出していても、司会者から声が聞こえてくるように感じます(場所の認知)。
また、「聴覚」と「視覚」に対する効果としてマガ―ク効果があります。
マガ―ク効果とは
人の声の聞こえ方が目から入ってくる唇の動きによって情報が変わってしまう
現象をさします。唇を閉じないと発音できない「ぱ」や「ば」などは、聴覚情報より視覚情報が優先されてしまうからです。
さいごに
今回は「視覚」と「聴覚」に関する人間工学を見ていきました。
人間工学って体の動かしやすさだけだと思ってた・・・
という方たちも多いのではないかと思います。
アラームの発生に関しては「聴覚」、場所の特定に関しては「視覚」が重要です。医療現場では
- 周りがザワザワしている
- マスクをしていて唇の動きが見えない
- メモリが縦向きが多い
- 様々な医療機器が音を発生させている
などなど、「視覚」「聴覚」に関してもミスがおこりやすい現場となっています。
特性を理解して、十分に気を付けながら業務を行いましょう。
参考図書
- 人間工学の基礎
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