不同調ってなに?
人工呼吸器の不同調とは、人工呼吸器と患者さんの間で
- 吸いたいときに吸えない
- 吐きたいときに吐けない
などのミスマッチが起きている状態を言います。
なんだか、苦しそう・・・
不同調が発生していると呼吸がしにくく、とても苦しくなってしまいます。
- 吸いたいときに吸えないため、頑張って息を吸ってしまう
- 吐きたいときに吐けないから、頑張って息を吐こうとしてしまう
からです。
そこで今回は「人工呼吸器の不同調」について見ていきたいと思います。
不同調にはどんな種類があるの?
不同調の種類は大きく分けると
- トリガー
- 送気流量
- 送気終了
に分けることができます。
それではそれぞれ見ていきましょう!!
トリガーに関する不同調
まずはトリガーに関する不同調から!!
トリガーとは患者さんの「吸いはじめ」を検知する機構です。
吸いはじめに問題あり!!
トリガーに関する不同調は
- トリガーディレイ
- ミストリガー
- ダブルトリガー
- オートトリガー
- リバーストリガー
があげられます。
トリガーディレイ
トリガーディレイとは
患者さんの吸気開始と人工呼吸器の送気開始にタイムラグがある状態
です。
患者さんが息を吸い始めているのに人工呼吸器がガスを送ってくれず、少し遅れてガスが供給されているため、苦しくなります。
吸気努力が弱く、吸気時間も短い新生児領域で問題になります!!
ミストリガー(Ineffective effort)
ミストリガーとは
患者さんが吸気努力を行っても、人工呼吸器がガスを送気しない状態
です。トリガーディレイはタイムラグの後、送気されます。しかしミストリガーは患者さんの吸気努力を検知できていないため、人工呼吸器から送気すらされません。
内因性PEEP(autoPEEP)発生時にミストリガーは起きやすいです!!
autoPEEPの時になぜミストリガーが発生しやすいの?
autoPEEPとは
患者さんが息を吐いているときに次の吸気が発生してしまい、息が吐ききれいていない状態
です。
息が吐ききれていないため、肺の中にガスが溜まってしまいます。結果、肺の中の圧力がPEEP設定値より高くなってしまいます。
よって、高くなってしまった圧力分、余計に息を吸わないと人工呼吸器が検知できません。
COPDなど、閉塞性肺疾患の患者さんで多く見られます。
ダブルトリガー(Breath Stacking)
ダブルトリガーとは
吸気終了後、呼気を行わず(非常に短い呼気)、再び吸気が行われる状態
です。
患者さんが欲する吸気時間に対して人工呼吸器の設定が短い場合や、一回換気量が少ない場合などに発生します。
連続した換気が行われるため、肺に過剰な圧がかかり、肺損傷してしまう可能性があります。
オートトリガー
オートトリガーとは
患者さんが吸気努力を行っていないにもかかわらず、人工呼吸器がガスを送気している状態
です。
トリガー感度が高い場合やリークが発生しているとき、心尖拍動などによって発生します。
吸気を検知していないにも関わらず、ガスを送気してしまうため、autoPEEPが発生してしまう可能性があります。
リバーストリガー
リバーストリガーとは
人工呼吸器の送気によって横隔膜の収縮が誘発された状態
です。
具体的な発生の機序は不明です!!
- 深鎮静
- 呼吸努力が低い場合
に発生します。
↓リバーストリガーに関する記事
送気流量に関する不同調
次は送気流量に関する不同調です!!
流量に関する不同調は「サギング」があります。
サギング
サギングとは
患者さんの吸気流量に対して、人工呼吸器が送気している流量がたりない状態
です。
サギングは「量規定換気:VCV」で発生します。
量規定換気は送気する一回換気量を規定してガスを送気します。一回換気量は
- 一回換気量=流量×吸気時間
で求めることができます。
量規定換気は一回換気量と流量もしくは吸気時間を決める!!
そのため、量規定換気は患者さん自身が人工呼吸器から送気される流量を調整することができません。よって、「吸い足りない」状態であるサギングは量規定換気でのみ発生します。
サギングが発生したら圧規定換気にしよう!!
送気終了
最後に送気終了に関する不同調です!!
早期終了に関する不同調は
- 早期終了(Premature Cycling)
- 終了遅延(Delayed Cycling)
があります。
早期終了(Premature Cycling)
早期終了(Premature Cycling)は
患者が吸気努力をしているにも関わらず、人工呼吸器の送気が終了している状態
です。
送気が終了している状態で吸気努力をしているため、ダブルトリガーしてしまう可能性があります。
終了遅延(Delayed Cycling)
終了遅延(Delayed Cycling)とは
患者が吸気努力が終了しているにも関わらず、人工呼吸器の送気が行われている状態
です。
吸い終わっているにも関わらずガスが送気されるため
- 不快感
- 肺の過膨張やautoPEEPの発生
の原因となってしまいます。
不同調はどうやって見つけるの?
人工呼吸器の不同調を発見するには「グラフィック波形」に注目します。
しかし、グラフィック波形から不同調を見つけるのは難しいです。
論文を見てみましょう!!
この論文では集中治療医のほうが不同調を見つける能力は高いようですが、そもそも不同調自体を見つけるのは難しいという結果が出ています。
なかなか「人工呼吸器の不同調」の発見は難しいようです。
そこで不同調発見の手助けになるのが
- 横隔膜活動電位
- 食道内圧
です。
横隔膜が収縮するときに発生する電位を横隔膜活動電位と言います。横隔膜が収縮するとき(息を吸うとき)に電位は上昇し、弛緩するとき(息を吐くとき)に活動電位は低下します。
横隔膜活動電位に関する記事↓
食道内圧の変化は胸腔内圧の変化と置き換えることができるため、食道内圧の変化は呼吸努力の変化と言えます。
食道内圧に関する記事↓
横隔膜活動電位と食道内圧、ともにカテーテルの挿入が必要なため、少しハードルが高いですが・・・
不同調は何が悪いの?「Eccentric contraction:エキセントリックコントラクション」
人工呼吸器の不同調は何が悪いの?
不同調は「肺」だけではなく、「横隔膜」へもダメージを与えるとされています。
なんで?
それを知るために「筋トレ」をイメージしてみましょう。
ダンベルを使って筋トレをする際、
- ダンベルを持ち上げるとき
- ダンベルを下げるとき
どっちが腕に負荷がかかるでしょうか。
ダンベルを下げるとき!!
ダンベルをゆっくり下げると腕に負荷がかかります。
これは「筋トレ」界隈では有名らしく、「Eccentric contraction:エキセントリックコントラクション」と言います。
ではこれを呼吸に当てはめてみましょう。呼吸で一番重要な筋肉は「横隔膜」です。横隔膜が収縮して肺の中へ空気を取り込み、横隔膜が弛緩して肺から空気を吐き出します。
つまり、呼気は「横隔膜が伸びようとしている状態」です。
この状態で横隔膜が収縮しようとすると「Eccentric contraction:エキセントリックコントラクション」により、横隔膜に多くな負荷がかかってしまいます。
どんなとき?
たとえばミストリガー(Ineffective effort)です。
autoPEEPが発生中に吸気努力をした場合を考えてみます。
autoPEEP中は呼気フローがある中で吸気努力をしなければならないため、
息を吐きながら(横隔膜が弛緩しながら)、吸気努力(横隔膜が収縮)
これは、「Eccentric contraction:エキセントリックコントラクション」のため、横隔膜に負荷がかかってしまいます。
さいごに
今回は「不同調」について記載していきました。
近年では不同調は肺のみならず、横隔膜にも悪影響を与えることが分かってきました。
不同調をなくすよう努力していきましょう!!
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