医療従事者はよく論文などのデータに触れることが多いと思います。また、学会発表するのであれば自分でそのデータを扱わなければなりません。
よく先輩から
それ、エビデンスあるの?
・・・・・・・
なんて言われたものです。
今回はそのデータの見かたについて考えていきましょう。
体力があるこどもは学力が高い
体力があるこどもは学力が高い場合が多いと言われています。
では、体力があるから学力が高いのでしょうか。
ここで大切になるのが「因果関係」と「相関関係」です。
- 因果関係
片方が原因となって、もう片方が結果として生じた場合。つまり、2つの事柄のうち、どちらかが原因で、どちらかが結果である。
体力があるこどもは学力が高い場合で考えると、「体力」があるという原因によって「学力」が高いという結果がもたらされる場合「因果関係」があるということになります。
つまり、体力さえつければ勉強しなくても学力を上げることができるということになります。さすがにこれはありえないです。
そのため、「体力」と「学力」に因果関係はないということです。
- 相関関係
2つの事柄に何らかの関係性があるが、その2つは原因の結果と関係がない
つまり、体力と学力の関係は因果関係ではなく相関関係にあると言えます。
このように「因果関係」と「相関関係」を混同してしまうと誤った判断をしてしまいます。
体力があるこどもは学力が高い場合ではわかりやすかったですが例えば、以下の場合はどうでしょうか。
- メタボ健診を受けていれば長生きができる
- テレビを見せるとこどもの学力が下がる
- 偏差値の高い大学へ行けば収入が上がる
この場合は「因果関係」と「相関関係」どちらでしょうか。
なかなか難しいですね。
「因果関係」があるかどうかを確認するために
- まったくの偶然ではないか
- 第3の変数は存在していないか
- 逆の因果関係は存在していないか
をチェックしましょう
まったくの偶然ではないか
- 見せかけの相関
単なる偶然に過ぎないが、2つの変数がよく似た動きをする
例えば、
- 「ニコラスケイジの年間映画出演本数」と「プールの溺死者数」
- 「ミスアメリカの年齢」と「暖房器具による死亡者数」
- 「商店街における総収入」と「アメリカでのコンピューターサイエンス博士号取得者数」
これらの間には強い相関があります。
また、有名な話では「ジブリの呪い」があります。
ジブリの呪い
スタジオジブリの映画が日本のテレビで放映されるとアメリカの株価が下がる
というものです。
このように2つの変数の関係がまったくの偶然に過ぎないのではないかと疑ってみることが大切です。
第3の変数は存在していないか
変数とはさまざまな値をとるデータのことです。
たとえば
- 年齢、身長などの数値
- 性別のように男性、女性を分ける文字
などです。
- 交絡因子
原因と結果の両方に影響を与える第3の変数
「体力のある子どもは学力が高い」この場合、「親の教育熱心さ」という第3の変数がある可能性があります。親が教育熱心であれば、子どもにスポーツをさせることもあるし、勉強などをさせることもあると思います。
このように交絡因子が存在しているかどうか疑うことが大切です。
逆の因果関係は存在していないか
「警察官の人数が多い地域では、犯罪の発見件数も多い傾向にある」
この場合、因果関係があるとすると警察官が多いことで犯罪件数が増えるということになってしまいます。そんなわけがありません。この場合、「犯罪が多い地域だから多くの警察官を配置している」と考えるのが妥当でしょう。
このように、原因と結果の方向が逆ではないかと疑ってみることが大切です。
因果関係を証明する
因果関係を証明するためには反事実(仮にしなかったらどうなるか)を比較します。
つまり、原因が起こったという事実における結果と原因が起こらなかったという反事実における比較をしなければならないということです。しかしタイムマシンでもなければ事実は観測できても反事実は観測できません。タイムマシンがあれば、原因が起こったという事実を確認した後に過去に戻って原因が起こらなかった状態を見ればいいわけです。が、実際にそんなことできるわけありません。
では、どうやればいいでしょうか。
- メタボ健診を受けていれば長生きができる
- テレビを見せるとこどもの学力が下がる
- 偏差値の高い大学へ行けば収入が上がる
この3つで確認してきましょう。
メタボ健診を受けていれば長生きができる
- メタボ健診を受けていれば長生きができる
この場合、「メタボ健診」と「長生き」に因果関係が必要になります。
以下はデンマークで行われた研究になります。
30~60歳の成人男女を、健診を受ける約1万2000人(介入群)と健診を受けない約4万8000人(対照群)にランダムに割り付け、両グループを10年追跡
健診によって将来病気になるリスクが高いと判断された人々は5年間で約4回の保健指示を受けるよう指示をだしました。しかし、生活習慣の改善にもかかわらず10年後に示された結果は介入群と対照群の死亡率の差は統計的に有意ではなかったという結果がでました。
つまり、デンマークで行われた研究結果では「健診を受けたからと言って、必ずしも長生きできるわけではない」となってしまいます。
これはデンマークの結果になります。
他の国の結果はどうなの?
他の国、地域で行われた研究を合わせた結果は
健診と長生きの間には因果関係はない
という結果がでました。
※健診は長生きにはつながらないかもしれないが、糖尿病、高血圧を送気に治療することで、脳梗塞や失明などの合併症を予防し、結果として生活の質が向上できる可能性はあります。
有意差とは・・・?
観測された差が偶然の産物である確率が5%以下であるときに統計的に有意であるといい、2つのグループの差は誤差や偶然では説明できない意味のある差
イメージで言うと、コインを投げて連続で5回表がでる確率です。
5回も連続で表が出れば「何か仕掛けがあるのではないか」と疑いたくなる感覚を数字的に落とし込んだのが5%という数字です。
テレビを見せるとこどもの学力が下がる
- テレビを見せるとこどもの学力が下がる
「テレビ」と「子ども」の学力に因果関係が必要になります。
厚生労働省の統計によると、小学6年生の子どもは平日に約2.2時間、休日には平均2.4時間もの時間テレビを見て過ごしているそうです。今はYoutubeでしょうか。では、本当にテレビを見ると子どもの学力は下がってしまうのでしょうか。
- 因果関係:テレビをみるから学力が下がる
- 相関関係:学力が低いような子どもほど、よくテレビをみている
はたしてどちらでしょうか。
アメリカの研究を見ていきましょう。
アメリカではテレビは1940年代から1950年代半ばに普及しました。1948年から1952年までテレビの放送免許が停止され、この時点でいつもテレビ局が開局されていない地域では1952年までテレビを見ることができない状態になりました。この状況を利用して
- 1948年以前からテレビを見ることができた家庭(介入群)
- 1952年以降しかテレビを見ることができなかった家庭(対照群)
に分類したそうです。結果は
幼少期にテレビをみていた子どもたちは、小学校に入学した後の学力テストの偏差値が0.02高かった。
でした。これは意外な結果です。その中でも
- 英語が母国語ではない
- 母親の学歴が低い
- 白人以外の人種
ではテレビの効果が大きかったそうです。逆に、経済的な豊かな家庭では、ときにはマイナスの効果になることが明らかになっています。
偏差値の高い大学へ行けば収入が上がる
- 偏差値の高い大学へ行けば収入が上がる
「大学」の「偏差値」と収入に因果関係が必要になります。
- 因果関係:偏差値の高い大学に行ったから収入が高くなった
- 相関関係:潜在能力が高く収入が高くなるような職業につく人が、偏差値の高い大学を選択した
この研究はアメリカにて行われました。
※アメリカでは筆記試験の結果以外、高校の成績、教員からの推薦状、志望動機などを総合的に判断され選抜されます。
それぞれの受験者がどの大学に合格し、どの大学に不合格になったという情報を収集しました。たとえばA大学とB大学に合格したがC大学には不合格だった2人がいたとき、同じ大学に合格し、同じ大学に不合格だったため比較可能な2人になります。また、A大学のほうがB大学より偏差値が高く、それぞれがA大学、B大学に進学したとします。この2人を比較すれば検証が可能になります。
- 介入群:ある大学に合格して実際に進学したグループ
- 対照群:同じく合格したがその大学に行かずに偏差値の低い大学に進学グループ
結果は
卒業後の賃金に統計的に有意差はありませんでした。
さいごに
今回は因果関係と相関関係、介入群と対照群について見ていきました。
これらを混同してしまうと違う結果、正しい情報が得られなくなってしまいます。
これらを踏まえて論文を読んだり、学会に参加したりすると違う見え方ができるかもしれませんね。
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