世の中にはいろいろな業界があります。
食品業界だったり、保険だったり、車だったり・・・・

医療機器業界は儲かるの?
そんな中で、臨床工学技士と一番関連が深い「医療機器業界」は果たしてもうかるのか?
経営学(経済学)の観点から他の業界と比べていきたいと思います。
医療機器業界は儲かるの?
まず、アメリカではどのような業界が儲けているのでしょうか?
アメリカの株主資本利益率(Return On Equity:ROE)を見てみます。
※ROE:株主資本(=自己資本)に対してどれだけ効率的に利益を上げているかを示す、企業の収益性を測る指標
1999-2002年の間でROEが最も高いのは製薬業(26.8%)、次いで食品(22.8%)です。
では、医療機器はというと18.8%と第5位にランクしています。
逆に人材派遣(6.5%)、損害保険(5.3%)などと比べると医療機器業界は他の業界と比べても儲かることが分かります。
また、半導体業界(5.8%)、情報通信(3.5%)でした。
食品(22.8%)と比べて半導体業界(5.8%)、情報通信(3.5%)とROEが低いが、2000年前後の市場成長性は食品関係のほうが低かったはずです。
そのため、
市場の成長性が高いから企業の利益率が高い
とは限らないことが分かります。
つまり、産業の収益性は需要の伸びだけでなく
その産業が儲かる構造になっているかどうか
が重要になります。
完全競争
完全競争とは
- 市場に無数の小さな企業がいて、どの企業も市場価格に影響を与えられない
- その市場に他企業が新しく参入する際のコストがない。その市場から撤退するコストもない。
- 企業かの提供する製品、サービスが、同業他社と同質である。差別化がされない。
- 製品、サービスを作るための経営資源を他企業にコスト無く移動できる。
- 企業の製品、サービスの完全な情報を顧客、同業他社が持っている。
の条件を満たした状態を言います。
そして完全競争が起きると
企業が何とかやっていける利益
しか上げられなくなります。
例えば、完全競争下において、ある産業の企業が儲かっていると、他業界の企業やスタートアップの企業が参集してきます。

②その市場に他企業が新しく参入する際のコストがなく、その市場から撤退するコストもないためです。
この産業は多くの企業が入っても皆同じ製品を作っています。

③企業かの提供する製品、サービスが、同業他社と同質であり、差別化がされないためです。
そのため、各企業は製品の特性で勝負ができないため、価格を下げるしかありません。
しかし、

①市場に無数の小さな企業がいて、どの企業も市場価格に影響を与えられません
完全競争下では徹底した価格競争が行われ、全ての企業がギリギリでやっていける利益しか上げられない水準まで下がってしまいます。
完全独占
完全競争①~③の真逆を示すのが完全独占です。
業界に1社だけ存在して価格をコントロールし(①の逆)、他の企業が参入できない状態(②の逆)。1社しかいなければ、差別化もない。
では、下図を見ていきましょう。

完全競争の場合
D:需要曲線
市場価格がさがるほど消費者の需要が増えるため右肩下がり
完全競争の場合、①市場に無数の小さな企業がいて、どの企業も市場価格に影響を与えられないため、市場の供給量と需要量は費用限界曲線と需要曲線が交わった点となります。
これは、「需要と供給の一致の法則」と言われ、超過利潤はゼロになります。
完全独占の場合
独占企業の場合、生産量と価格は自分でコントロールできるため、自社の利益が最大限になるよう生産量と価格を設定します。その生産量は限界費用と限界収入が一致する点になるはずです。そして、独占企業は価格競争が発生しないため、最適な生産量の価格を吊り上げることが可能です。
このように完全独占の場合、
供給量が減り、市場価格が上昇することで大幅な利益を得ることが可能となります。
このような「完全独占による市場支配」は「独占禁止法」で違反となります。
そのため、図のような状況とまったく同じことはそうそう起きませんが、「独占に近い産業」は存在します。
そのため、企業は
自社の競争環境をなるべく完全競争から引き離し、独占に近づける手を打つこと=寡占
が重要になります。
ここで1つの疑問が発生します。

寡占は独占とは違い、少数でもライバル企業が同じ産業にいるため、複数社で競争すれば各企業の収益は低下するのではないか?
という点です。
しかし、
寡占産業は企業数が少ないため1社の行動が他社に影響を及ぼしやすい
点に注目してみます。
A、B、C社だけが占有している産業でA社が製品価格を大幅に下げたら、B、C社も対抗するために価格を引き下げます。するとA社はB、C社に対抗するためさらに価格を引き下げます。この状況が進みすぎると「極度の価格競争」になってしまうため、「価格を引き下げないほうが賢明」になります。

結果として、A、B、C社は価格を引き下げないため安定した収益を保つことができます。
この「暗黙の共謀」は業界内で現実に多くあります。
日本のビール業界は長年大幅な値下げ競争は発生せず、収益性を保っています。
また、コーラとペプシの2強が価格競争を仕掛けることもなく高い収益性を保っています。
では、どのような業界が「寡占」になりやすいのでしょうか。考えていきましょう。
参入障壁
完全競争の条件である
②その市場に他企業が新しく参入する際のコストがない。その市場から撤退するコストもない
の逆、つまり参入障壁です。
参入障壁(コスト)が高ければ既存企業が独占できます。
例えば、ある業界では、作れば作るほどコスト競争力が増し、大規模企業は利益を得やすいとします。
他業界の企業やスタートアップ企業が参入を検討した場合、既存企業と競争するために、大規模生産を達成しなければなりません。その費用、リスクのためなかなか参入に踏み切れません。
つまり、参入障壁が高いため、既存企業が価格支配力を持て、安定した利益を出すことができます。
また、「業界の参入障壁」のみならず「企業間の移動障壁」もあります。
移動障壁
1つの産業の中でも
製品ラインナップ、進出地域、費用構造などで似ている企業、似ていない企業があり、同じ産業でも特性の異なるグループが複数存在します。
その中で企業が高い利益を得たい場合
- 自社グループの特性をなるべく他グループに似せない
- 自社グループの企業数が少ないほうが、そのグループが独占状態に近づく
と言えます。
つまり、「似せないこと」、「差別化すること」が重要になり
③企業かの提供する製品、サービスが、同業他社と同質である。差別化がされない。
の逆になります。
企業レベルでの戦略的差別化により、企業グループ間の高い移動障壁が生まれ少数の企業がグループを支配するというロジックです。
さいごに
はたして医療機器業界が他業界と比べて儲かりやすいのか。
医療機器業界は参入障壁が高く、移動障壁も高いと考えられます。
そのため、他の業界と比べて儲かりやすい仕組みができていると考えられます。
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