今回は経肺圧について紹介します!
そもそも経肺圧ってなに?
ということで、まずは経肺圧について。
経肺圧ってなに?
人工呼吸器で換気、つまり肺の中にガスを入れるとき
人工呼吸器による陽圧換気と自発呼吸による陰圧換気の2パターンあります。
患者さんの自発呼吸が無ければ人工呼吸器による陽圧換気だけですが、自発呼吸が出てきたら人工呼吸器による陽圧換気と自発呼吸による陰圧換気によって換気します。
そのため、肺には陽圧と陰圧の2つの圧力が肺にかかります。
その圧力が経肺圧です。
経肺圧は
経肺圧=気道内圧-胸腔内圧
で求めることができます。
経肺圧の測定には胸腔内圧をモニタリングする必要があります。しかし、胸腔内圧をモニタリングするのは難しいため、食道にカテーテルを留置して「食道内圧」を胸腔内圧の代わりとしています。
経肺圧関連の論文紹介
経肺圧関連の論文を見ていきましょう!!
まずはこの論文。
この論文では「Strain」と「経肺圧」は比例関係にあると言っています。
「Strain」とは「ひずみ」のことであり、「ひずみ」とは
物体に外力(=stress)を加えたときに生じる、のび・ちぢみ・ねじれなどの変化の割合
です。
↓「Strain」に関する記事。
つまり、「経肺圧」をモニタリングすれば肺の「Strain(ひずみ)」もモニタリングできる、ということになります。
続いてはこちらの論文!!
人工呼吸器による機械換気は肺にダメージを与えます。
この論文では、経肺圧は12cmH2O以下にするとよい、と書かれています。
しかし、ここで問題。
ARDSでは背側側が無気肺になることが多く、背側と腹側では肺の膨らみやすさが変わります。
- 背側が膨らみにくく、虚脱しやすい
- 腹側側は肺が膨らみやすいため過膨張になりやすい
といえます。
↓EITの記事。肺の膨らむ場所についても書かれています。
食道は背側にあり、カテーテルは食道に留置されているため、腹側ではなく背側の圧力が反映されている可能性があります。
経肺圧の式は
経肺圧=気道内圧-胸腔内圧
でした。
よって、この式で求められる経肺圧はカテーテルを食道内に留置しているため「背側の経肺圧」と言えます。
そこで登場するのが「エラスタンス法」です。
エラスタンスとは「肺のかたさ」です。つまり、コンプライアンスの逆数です。
↓コンプライアンス関連の記事
エラスタンス法に関する論文です
この論文では経肺圧を
吸気終末の圧力×(肺エラスタンス/呼吸器系エラスタンス)
で求めています。この式は肺にかかっている圧力の分布を求めています。
このエラスタンス法でもとめた経肺圧が実際どうなのか、を調べた論文がこちら。
豚の動物実験になります。
ARDSの豚にたいして、食道に挿入したカテーテルから測定した食道内圧を測定し
- 「経肺圧=気道内圧-胸腔内圧」
- 「経肺圧=吸気終末の圧力×(肺エラスタンス/呼吸器系エラスタンス)」
- 実際の経肺圧
を比べたところ、エラスタンス法と実際の経肺圧が近い値になりました。
そのため、エラスタンス法で測定した経肺圧は実際の経肺圧に代替えが可能と考えられます。
そんなエラスタンス法を使った論文がこちら。
自発呼吸が無いARDS患者385名を対象。
この論文では
- 呼気終末の経肺圧が0以上と未満で60日生存率に差なし
- エラスタンス法による吸気終末経肺圧が24未満、以上で60日生存率に差あり
という結果。
エラスタンス法による吸気終末経肺圧が24未満だと60日生存率が高かった結果と裏腹に、呼気終末の経肺圧は生存率には影響を与えないのは少し意外です。
肺胞を虚脱させないために呼気終末の経肺圧は0以上が良い、というイメージでした。
しかし、この論文ではサブ解析があります。
肥満患者(BMI30以上)では呼気終末の経肺圧が0以上のほうが60日生存率が良い、という結果に。
ということは「肥満」の場合は呼気終末の経肺圧がかかっているほうが良いということです。
なぜだろう?
そこでこの論文。
この論文では肥満患者にたいしてPEEPをかけると虚脱率は減少するのに対して、過膨張は起こしにくいという結果が。
おそらく肥満によって腹圧が高くなるため、PEEPを高くしても過膨張が起きにくくなるためだと思われます。
よって、肥満患者にたいしては呼気終末の経肺圧が0以上のほうが良い、ということになります。
さいごに
今回は経肺圧について書いていきました。
経肺圧を測定できる機種も増えてきているため、使用頻度も増加していきそうですね。
人工呼吸器に関する電子書籍をkindle出版しています。興味のある方は是非!!
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